九州大学 エネルギー基盤技術国際教育研究センター

センター長挨拶

センター長九州大学エネルギー基盤技術国際教育研究センター長

大瀧 倫卓

 

 人類の歴史は、豊かな生活を求めた様々な活動に彩られている。とくに産業革命を契機に、大量の工業製品を生産し消費することにより、物質的に豊かな社会が追求されてきた。この20世紀の物質文明には、大量のエネルギーを必要とし、これを支えたのは化石資源である。石炭、石油、天然ガスの資源開発と利用技術が進められ、さらに、原子力発電技術をあわせて、エネルギーの安定供給は各国の国家的課題となっている。一方で、環境汚染や地球温暖化問題、ならびに、資源の枯渇への不安、に見られる大量生産、大量消費に伴う負の側面も次第に拡大し、経済成長とのバランスをいかに取るかも大きな課題と認識されるようになった。とくに、発展途上国の急速な経済発展は、世界の資源・エネルギー・環境の状況に大きな影響を与えており、まさに、世界全体で考え、真剣に取り組まなければならない問題となっている。

 

 日本は資源のない国であり、エネルギー資源を含む多くの資源は輸入に頼っている。エネルギー政策としては、温室効果ガス削減方針のもとに原子力発電割合を大幅に、再生可能エネルギーを着実に増加させ、相対的に火力発電の割合を減少させる政策が決定されたが、その直後に起こった東日本大震災、福島第一原子力発電所事故は、そのシナリオを根本から揺るがした。現在、日本のエネルギーは化石資源にほぼ完全に依存しており、同時に、エネルギー価格の上昇が将来を圧迫する懸念が広がっている。

 

 九州大学は、エネルギーに関連した科学技術研究を先導する拠点形成を進めている。伊都キャンパスにおいては、水素利用技術研究を核にカーボンニュートラル・エネルギー国際研究所が設置され、また、筑紫キャンパスを中心に、石炭、石油、天然ガスの化石資源に再生可能エネルギー資源であるバイオマスを加えた炭素資源研究の拠点、炭素資源国際教育研究センターが設置された。筑紫キャンパスでは、同時に、グローバルCOEプログラム「新炭素資源学」、リーディング大学院プログラム「グリーンアジア国際戦略」が実施され、先端研究に裏打ちされた、次世代を担う大学院学生、若手研究者の育成を進めている。

 

 筑紫キャンパスでは、エネルギーの効率利用や安定供給を支える科学技術、例えば、蓄電・蓄熱技術、熱電・光電変換、および、省エネルギー技術は、炭素資源研究とリンクすることにより、グローバルCOEプログラムの中で研究連携、人材育成連携を進めてきた。しかしながら、総合的にエネルギー科学技術を俯瞰した場合、これら「エネルギー基盤技術」に関する材料、デバイス、システム研究は、世界の中でも日本が最も強みを持つ分野である。また、資源のないわが国で、環境負荷をミニマムに保ちつつエネルギーの徹底した効率利用は急務の課題であり、かつ、現実的エネルギー源としての炭素資源から、拡大が期待される再生可能エネルギーへのシフトを支える技術の育成は推進すべき方向性である。

 

 本センターはこれらの背景をもとに、九州大学の大学改革活性化制度に、総合理工学研究院、応用力学研究所、先導物質化学研究所の3部局が合同で設置を提案し、認められて発足した。センターでは、再生可能エネルギーとの連携のもとに、蓄電・蓄熱技術、熱電・光電変換、および、省エネルギー技術の研究の集中実施と、国内外の研究者の交流によるグリーンイノベーションの実現をめざす。また、炭素資源国際教育研究センターを中心に、学内のエネルギー関連研究者との研究連携、グリーンアジア国際戦略プログラムは新炭素資源学プログラムとの連携による人材育成と連携し、総合的なエネルギー関連科学技術を支える学際分野の構築を図る。平成25年4月発足後、人事を含むセンターの基盤構築を進めてきた。現在、本格的な研究教育活動を進めており、国内外の産学官研究者の皆さんのご理解、ご支援をお願いする。